きっかけは些細なことだ、と思っていた。
業者に頼むパフレット、表紙をフルカラーにしたい、と言い出した。
それを素直にいい思いつきだと言わなかったことが、いけなかった
らしい。(それさえも、後々に分かったことなのだけれど)
すでに業者に見積りをとっているわけで、業者との話がどうなって
いるのか、相手がいいと言えばいいし、言わなければあきらめる
しなかない、と言っただけだけれど。
とたんに、不機嫌。
さらには、上司に僕がいわれなくノーと言った、と聞こえるように言う。
少々腹が立ったので、定時後二人きりになった機会に、
「ちょっと、いい?」と声をかけた。
相手のあることだし、契約はしてないものの見積りを取って
こちらも予算を取っている。約束以上のことをしてもらえるかどうかは
相手次第だ、と言っただけだよね。まぁ、理屈を言っても仕方がなかった。
彼女が面白くないのは、単に僕がポジティブな反応をしないこと
なのだったのだから。
彼女が問題点とする、もともとのきっかけはずっと前のことだった。
もう何ヶ月も前から、(明確に日まで言って、その日からずっと…)
腹を立てていたのだという。(僕には覚えがない)
他の誰それには、優しく気を遣って喋ってるのに、私にだけは
冷たい、とおっしゃる。
もう口も聞きたくないから、もう関係ないけどね、と捨て台詞まで言う。
正直、思い当たる節はないわけではない。
女性特有の感情的な部分は、女性の魅力的な部分だとは思っている。
しかし、可愛げがあると思えないほど甚だしければ、それは単なる
わがままだ。特に職場における業務遂行上においては。
彼女のそういう部分は、我が課では誰もが認めるところ。
感情的なときの彼女は、アンタッチャブルというのは暗黙の了解。
それだけに、気を遣って喋るのならそれはこの女性に対してのこと
なのに。
「ケツヲマクル」という言葉が心の中でテロップされた。
もう沢山だ、と思う反面、次の異動までの短くはない期間のことも
考えたりもした。
もし、冷たいという印象を与えたのなら、謝る。
でもそういう気持ちはないし、もし可能性としてありえるなら、それは
僕のあなたへの甘えなのかもしれない。
他の人よりも実際付き合いも長いし、心の底で「身内意識」のような
ものがあるのかもしれない。他の人には気を使っても、身内には
気を配らなくてもいいというような。
だから、不快な思いをさせたり、態度が悪いということなら、それは
完全に僕が悪いということなので、許して欲しい。そう言って、頭を下げた。
…取り付く島はなかった。
もう話したくもないから、謝ってほしくない、と。
一応、プライドを棚上げして謝ってみたわけだが、通用はしなかった。
もとよりこちらも、全く悪くないと思っているので、特段にダメージは
なかったけれど。
二人してもめているうちに、突然電話が鳴る。
詳しくは言えないが、我が社的には緊急事態。
対応できるのは、残っている二人のみ。
もめごとを放り出して、とりあえず二人で事後処理に駆けずり回った。
警察や関係機関に出向いたり連絡したり。
二人して、なかなかの手際だったと思う。
警察へ向かう車の中で、もう一度だけ話をした。
入社したときに、隣の席で手取り足取りいろいろと教えてくれたのは
あなただった。
そういう意味で母親のように思っていたのかもしれない。
男なんてものは、母親には無愛想なものだ。きっと嫌だと思われる
かもしれないが、そういう意味で甘えていたのだと思う。
今後は態度も気をつけるが、今は謝るしかない。
すまない、と。事件への対応もあって、少しは気持ちが収まったのか、「今回は
許す」との言葉を得た。
喜んでみせたが、特段嬉しくもない。
ただただ非常に疲れた。
事件への対応で得た充足感を疲労感ははるかに凌ぐ。
しかも、心にもないことをしれっとして言う自分には、ほとほと
自己嫌悪を感じる。本当に自分が嫌いになる。
そんなこんなで帰ってくるのが少し遅くなった。
さてさて、今晩これから飲むべきか、非常に迷うところだ…